第3章 かわいいヒーロー/hr
うーんうーんと難しい顔で悩んでいる彼。時折聞こえる独り言は少し不穏だが、彼は至極真剣だ。それだけ私のことを大切に想ってくれているんだなあ、と思えば嬉しくなってしまう。恋は盲目、というやつでしょうか。
それにしても、先程は本当に驚いた。私よりは大きいけれど男性にしては小柄な彼に、あれだけの力が秘められていたとは。自分より背の高い相手にも一切怯まなかった、鋭い目。コツコツ骨張った手。相手の拳を軽々と払った頼もしい腕。広い肩幅に太くてしっかりした首。ぷっくりと主張する喉仏、とか。さっきの出来事のせいで、彼の男性らしい部分を妙に意識してしまって、うう、ドキドキする。
いつもは可愛さの方に心奪われてしまうけれど、彼だってあんなに力強くて頼り甲斐のある男の人、なんですよね。改めて、惚れ直してしまった。
「悠太さん、かっこいい、です」
「──え、今なんて」
「なんッ、なんでもありません、よ。そ、それより、安心したら、お腹空いちゃいました!」
「あ、そうだった。はやく帰ろうね。今日のお夕飯は、ヒラお兄さん特製なんまら辛〜いチゲ鍋だよお」
「わあ、ほんとですか! 私、辛いのだいすきですっ」
「ふふ、知ってるよ。俺と味覚もお揃いだもんね〜」
彼と手を繋いだまま、人混みの中へ紛れて歩き出す。彼の住むマンションへ向かう途中、黄色い看板が目立つドラッグストアの前でぴたりと足を止めた。
「そーだ、夜更かし用のお菓子とお酒も買っちゃおうか。お布団貸してあげるから、今日はうちに泊まったらいいよ」
「えっ!? で、でも、」
「……だめ?」
そんな、捨てられた子犬のように潤んだ瞳でコテンと首を傾げられたら、断ることなんて、出来ません。
「だ……だめじゃ、ないです……」
「えへへ、よかったあ♡」
いっしょに見たかった映画もアニメもたくさんあるんだよね、と無邪気にはしゃぐ彼は、いつものように可愛らしい。ああ、なんだ、そういうことでしたか。少しでもえっちな想像をしてしまった自分を恥じたいぐらいだった。
しかし今夜、もっと男らしい……いや、雄らしい彼の姿を見ることになるなんて、この時の私はまだ、気付いていませんでした──。
-了-