第2章 可愛い子ほど甘やかしたい/ky
ふんふんふーん♪
下手くそな鼻歌混じりに部屋のお掃除中、ぴんぽーん、とチャイムの音が高らかに鳴り響く。私はまるで飼い主の帰宅を待ち構えて居た小犬のように、すぐさま玄関へ向かった。
覗き窓の確認もせず不用心に、がちゃり、と扉を開けた先に居たのは、眉目秀麗な背の高い男のひと。猫のようなつり目、短い髪の後ろの毛先だけを赤く染めて、指や手首にきらきらとアクセサリーを付けて、黒いチェスターコートを靡かせた、その威圧感ある姿はちょっぴり怖いひとに見えてしまうかもしれない。でも本当は、人見知りで照れ屋さんなだけの、とっても優しいひとだって私は知っている。
だって、私の大好きな彼氏さんだから。
「……よお」
「キヨくん! いらっしゃーい、待ってました。ほら、入って入って」
「お、おう。お邪魔、します」
私が大きく扉を開いて見せると、彼は背中を丸めて俯きがちにおずおずと入ってきてくれた。
私たちは付き合い始めてまだ一週間の恋人関係。彼をこうして一人暮らしの自宅へ招くことは、実は今日が初めてなのです。
それにしても今日の彼は普段以上に様子が可笑しい。興味津々で部屋中を見渡して、私の目はちっとも見てくれずに周りをきょろきょろして、こちらがびっくりするほどソワソワと落ち着きがない。その姿はまるで、拾われたばかりの人馴れしていない野良猫のようだ。
居間にまだ陣取ってるコタツの前で、やたら良い姿勢でピシリと正座している彼。私はその隣に腰を下ろして、彼の顔を横から覗き込んでみる。途端、ビクッと彼の肩が大げさに震えました。
「……なんか、様子が変だけど、大丈夫?」
「大丈夫。全ッ然大丈夫。すげえ健康。最近ちゃんと朝起きて夜寝てるし、目も頭も冴えまくりで肌ツヤも最高、今なら生野菜も食えるわ、たぶん。あ、やっぱそれは無理」
いや、体調について聞いたつもりじゃなかったんだけど、でも健康なことは何よりです。彼の食生活の異常な偏りやその細過ぎる肉体は、何年も前から心配していることだから。あと野菜もちゃんと食べてほしい。
私が大丈夫か問い掛けたのは精神的な方。ちっとも私に合わせてくれない目線、何度も腕を組み直すような動作、ゲーム実況動画を撮っている最中かと思うような早口、どれも普段の彼はあまりしない行動だ。