第2章 ***
力無く笑う水戸さんを見て胸が締め付けられる。
彼女はいけないと思いながらも不信感を抱き、旦那さんのスマホをこっそり見てしまったらしい。
そこには浮気相手である女性とのやり取りがつらつらと綴られていたそうだ。
(こんな素敵な奥さんがいるのに、浮気するなんて許せない…)
俺は彼女の全てを知っている訳ではないし、夫婦2人の間に入ってとやかく言う権利が無い事も解っていたが、それでもこの怒りは治まらなかった。
「でもきっと…浮気される私の方にも原因があるんだよね…」
「っ…そんな……、水戸さんは素敵な人ですっ…だからそんな悲しい事言わないで下さい…」
「……、飛鳥くん…」
つい熱くなって本音が出てしまう。
変に思われたかと一瞬心配になったが、彼女はすぐに優しく微笑んでくれた。
「ありがとう……そんな風に言ってくれて…」
「……、」
「ねぇ…少しだけ私のワガママ聞いてくれる…?」
甘えるようにそう呟いた後、彼女はこちらの返事も待たず俺の胸に顔を埋めてくる。
当然俺は驚いてしまって…
「水戸さん…?」
「ちょっとの間…こうしててもいい…?」
「っ…」
顔は見えなかったが、その声はどこか震えているようだった。
もしかしたら泣きたいのを我慢しているのかもしれない…
「はい…」と小さく返事をし、彼女の背中に恐る恐る両手を回す。
そしてその細い体をそっと抱き締めた。
(…水戸さん……)
ずっと憧れていた女性が、今俺の腕の中にいる…
不謹慎だと解ってはいたが、彼女のシャンプーの香りやその柔らかい体に、俺の心臓はドクドクと早鐘を打っていた。
彼女が俺を何とも思ってない事くらい重々承知だ。
それでもいい…今この瞬間だけでも甘えてくれるなら…
「飛鳥くんは…彼女とかいるの?」
今だ腕の中にいる水戸さんが、不意に顔を上げそんな事を聞いてくる。
「いえ…いませんけど……」
「えっ…そうなの?こんなにカッコ良くて優しいのに?」
「…そ、そんな……」
「私がもし同い年だったら……絶対飛鳥くんの事好きになってるよ…?」
「っ…」
上目遣いで甘えるようにそう言われ、ドキリと心臓が跳ねた。
勘違いするな…水戸さんは冗談でこんな事を…
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