第2章 ***
母の言葉がすぐには理解出来なかった。
(…引っ越した……?)
そんなの嘘だ…だってかすみさんはそんな事ひと言も…
「…飛鳥!?」
俺は呼び止める母の声を無視し家を飛び出した。
そしてすぐ隣の部屋のドアの前に立つ。
そこにあったはずの『水戸』という表札は無くなっていて…
「…嘘だ……どうして…」
どうして俺に引っ越す事を教えてくれなかったんだ…
俺と彼女の関係に未来など無い事は解っていたが、それでもこんな別れ方酷すぎる…
(…そう言えばあの時……)
かすみさんと最後に体を重ねたあの日…彼女の様子がどこかおかしかった。
もしかしてこの事を隠していたのだろうか…?
なんであの時もっと問い詰めなかったのかと、今になって後悔する。
俺は彼女の行き先も連絡先も知らない…
もう二度と彼女に会う事は出来ないのだ…
「………」
不思議と涙は出なかった。
その代わり胸には大きな穴がぽっかりと空いて…
――ガシャンッ…!
手に持っていたオルゴールを地面に落とす。
硝子細工のそれは、俺の心と共に無残に砕け散った…
*
「飛鳥、あなたに手紙が届いてるわよ」
「…?」
学校から帰るとすぐに、母からそう声を掛けられた。
かすみさんが俺の前から姿を消して早半年…
当然彼女からの連絡は無く、俺は少しずつ元の生活を取り戻していた。
それでも彼女の事を忘れた日など一日も無いけれど…
「でも差出人が書いてないのよね。お母さんが開けようか?」
「いいよ…自分で開ける」
そう言ってその封筒を受け取り、俺は自室へ向かった。
(…一体誰からだ?)
封筒には綺麗な字で『成瀬 飛鳥様』と書いてある。
文字からして差出人は女性だろうか?
「………」
少しだけ期待してしまう…ひょっとしたらかすみさんからじゃないかって…
(…そんな訳ないよな)
あれからもう半年も経っているのだ…今更彼女が俺にコンタクトを取ってくるなんてありえない。
そう思い直し封を切る。
中には1枚の便箋……その内容に俺は驚愕した。
「…っ…、かすみさん…!」
思わず出てしまった声。
手紙の差出人はまさかのかすみさんだった。
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