第2章 TRIO
「お待たせ!はースッキリ」
のん気100%の顔で赤坂がトイレから出てきた。
オレは少しギクッとしたが、これ以上桃浜と話し続けなくて済むと思って、安堵もした。
「遅いぞ、赤坂」
「だってずっと我慢してたんだもんよ。さっ、帰るか!」
屈んで靴紐を結びだす赤坂。
そのかたわらに立つ桃浜。
オレはつとめて何でもないような表情を装い、桃浜の視線を無視した。
「じゃあな伊豆、また明日!」
玄関ドアを開けて、赤坂は手を振り出て行った。
「ああ、じゃあな」とオレも手を振った。
桃浜もまた、赤坂について出て行った…と思った時、フと彼女はこちらを振り返り、足を大きく踏み出し、オレのシャツを掴んで、耳元に顔を寄せ、
「嘘つき」
柔らかな唇をそのように動かした後、身を翻して赤坂の方へ駆け寄って行った。
(あ……)
耳に残る彼女の吐息。脳内にこだまする「ウソツキ」の4文字。
オレは身動き一つとれなかった。
開け放たれた玄関扉はギイとひとりでに閉まりはじめる。その向こうからは2人がいつも通りはしゃぎ合う声が聞こえた。
バタン、とそれはそれは重苦しい音を立てて、いよいよ扉は閉まり、オレと、2人の世界を隔てた。
(ちくしょう…)
誰もいない玄関にひとりぼっち、拳を震わせながら、オレはずうっと立ち尽くしたのだった。
ちくしょう、なんにも聞こえやしない。
おわり