第3章 交わす唇
今日もまた変わらず太陽は照りつける。
の足はただまっすぐと目指していた。
昨日の高架下のテニスコート。
たまに電車が通って少しうるさいのがちょうどいい感じの影のテニスコート。そこにまたきっとリョーマがいる。
そして今日もまた、今日もまたとは通い続けた。
相変わらずリョーマは無愛想だったけれど少しずつ会話も増えて、リョーマとの距離を縮めてきた。
針金のネットに指をはさんで、リョーマの背中を見つめる。
その時。
向こう側のネットに思い切りボールが当たる音がして、リョーマはカランとラケットをおいた。
くるりと向きを変え、ネットに張り付くに近づいてくる。
だんだんと近づいてくるリョーマを見ながら、はただじっとしていた。
動揺と少しの、期待。
動かないの姿にリョーマが近づく。
緑色のネットたった一枚を間にしてとリョーマは向き合って。
ネットを掴む、の指を絡みとって。
ひし形が重なる高い高い、ネット。
空間のひし形の間から
交わされた、キス。
二人の間に壁はあるけれどそれは二人の距離を阻むものではなかった。
右上のひし形に指を絡めて。
左下のひし形に指を絡めて。
お互い正面にある、唇。
重なったまま暫くそれは動かなかった。
ガタンガタンと上に電車が走る。
その音を聞きながらが目を開けたときリョーマが唇を離した。
「あんたの名前聞いてないんだけど。そういえば」
もし、とリョーマの出会いを一部始終誰かが見ていたとすれば、どこか順番が狂っているんじゃないかとそう指摘するかもしれない。
でもにはそれはどうでもよかった。
いつの間にか心を奪われ、話したい、一緒にいたい、きっとそれ以上も・・・
そう思っていたから。
「」
そう一言だけ、言った。
かつて、リョーマが一言だけ自分の名前をつぶやいた時の様に。
「ふーん」
下を向いていたリョーマが顔を上げて片足に体重をかける。
さらに走る、電車が一層音をたてて向こうを目指していく。
それを見上げてリョーマは言った。
「」
少し目尻が上がった大きな目は目線を未だネットにしがみついたままのを見て。
「覚えとくよ」
彼はそういった。