第13章 甘党のあさごはん
仕事着用の真っ白なYシャツに袖を通して朝の支度を終えたら、ようやくちゃんと頭が覚醒してきた。
先程、寝起きとは言えベッドで痴態を晒してしまった自分を思い出すと、恥ずかしさで顔から火が出そうである。お嫁さんとしてしっかりするべきなのに、甘えてばっかりで駄目だなあ。彼に呆れられてはいないか、不安だ。
寝室から抜き足差し足で廊下を歩き、恐る恐る、リビングを覗き込んだ。未だ寝間着姿のままに、ふんふんとご機嫌に音程のズレた鼻歌を奏でながら、台所でフライパンと格闘している彼の愛らしい背中が見えた。彼のカニさんエプロン姿も、この頃はとても様になってきた気がする。
ちょうど朝食が出来上がったのか、彼はくるりとこちらを振り返った。私と目が合った途端、ニヤニヤ笑い出した。
「おっ、うちの甘えんぼちゃんがやっと起きてきたな〜」
「うぐぅ、おはようございます……」
「ふふ、おはよー」
「ごめんね、朝ご飯の支度ひとりで任せちゃって」
「あ、いやいや、謝ることはないって。きっと疲れが溜まってんのやろ、寝起き悪い菜花ちゃんもなんや新鮮で可愛かったからええよお。それに、家事はふたりで協力してやろうなー、って約束やろ?」
「うん、だからこそ、ふたりで、」
「どっちか忙しい時は、どっちか暇な方が家事をやる。ってことで、ええやん。俺は今日なーんも予定無いし、菜花ちゃん専業主婦とちゃうんやから、甘えられる時は甘えとき」
そんなことより、今日のホットケーキめっちゃ綺麗に焼けたんやけど、ほら見て! 褒めて褒めて!!
──と、お皿に盛り付けた朝食を見せびらかして、満面の笑みで大はしゃぎする彼。その言葉通り、真っ白な皿の上では、美しいほど茶一色に焼けたホットケーキが輝いていた。いつの間にか、ゲームだけでなく料理の腕まで上達している。
「ほんまや、すごいねえ、めっちゃ美味しそう! ありがと、ルトくん」
「へへっ、せやろ〜? もっと褒めてくれてもええんやで、レトルトさんは褒めて伸びるタイプやから。高評価ください」
ご所望通り、凄い凄いと頭をよしよし撫でて更に褒めたら、彼はだらしないほど口元をふにゃふにゃ緩めて笑った。もう、かわいいなあ。