第12章 全身ラジオ〜新婚さんの話〜
ふぅ、と一息零しながら自室の扉を開ける。喋り過ぎてめっちゃ喉乾いたわ、お茶でも飲もう。そう思いながら台所へ向かうと、まだ明かりが点いていた。あれ、もう寝ていると思っていたのに。なんとなく、音を立てないよう壁の端からそっと覗き込む。
案の定、ワンピース型の寝巻きをふわりと揺らす彼女の小柄な背中が見えた。何だか甘くてやさしい匂いがする。小さな鍋に火をかけて、何か作っているようだ。そんな彼女の足元に、飼い猫たちが鬱陶しいくらいスリスリと額を擦り寄せたり、尻尾を巻き付けてはニャーニャー甘えている。
「にゃー、くすぐったいですにゃあ、君たちもミルクが飲みたいのかにゃー?」
ふふふ、と声を上げて笑いながら、足元の猫たちと楽しそうにお喋りしている彼女。え、なに今の、めっちゃ可愛い。録音しておきたかった。
あー、もうだめ、むり、我慢できない。俺は早足に、しかし気付かれないよう音は立てず慎重に、彼女の背後へと忍び寄って──
「ンニャーッ!」
彼女の腰からお腹にぐるりと両腕を回して抱き着いた。
「ひょわあああっ!?」
彼女はホラーゲーム実況を見ている時ぐらいの悲鳴をあげて、飼い猫たちもその声に驚いて逃げ去っていった。
悪戯大成功だ。ンフフ、と気持ちの悪い笑いを堪えきれない。そのまま、彼女の柔らかな頬にぴったり自分の頬をくっつける。
「レトにゃんもミルク飲みたいニャー」
飼い猫たちを真似てスリスリと甘えるように頬擦りする俺は、きっと猫たちよりも鬱陶しいだろう。謎の自信がある。
俺の些細な悪戯も彼女は相当驚いてくれたようで、ふえぇ、と本来なら二次元でしか許されないだろう(しかし彼女は可愛いので許される。可愛い)情けない声を吐き出し、俺の身体に凭れてぐったり脱力してしまった。
「び、びっ、びびっくりしまし、た」
「あはは、ごめんごめん。猫ちゃんたちとお喋りしてる菜花ちゃんが可愛くて、つい。猫たちばっかりずるいにゃー、俺も仲間に入れてほしいにゃー」
「えッ、ゃ、やだ、もお、見てたんですか? ルトくんのアホぉ……」
恥ずかしいなあ、もおー、なんて言いながらクスクス笑う声も聞こえる。彼女が少し鼻先を俺の方に向けた。