第11章 予定外の幸福
「でも、もう待っていられません。私がそばに居ないと、あなたがどれだけ駄目人間になるのか、今回の件でよおくわかりました!
毎日忙しくてお疲れなのは知っています。そうなるとお夕飯作りも面倒になってしまうのでしょう。でも、私、日頃から瓶詰めの鮭フレークは直箸しちゃ駄目ですよ、って注意していましたよね。雑菌が繁殖して痛みやすくなってしまうから、って。その上、いつ買ったかすら覚えていない消費期限切れのお豆腐を食べて、まさか入院沙汰になるなんて……。
だらしないにも程がありますっ、アホなんですか!? いえ、アホでしたね、このアホルト」
「うッ、ほ、ほんまにその通りです、ごめんなさい」
「謝っても許しません。きちんとお腹を治して退院するまでは。数日はしっかり病院で反省してくださいね。ぐすっ……私だって、ルトくんが居てくれなきゃ、駄目、なんだから」
怒っていた筈の彼女の声が、どんどん弱々しくなっている。死んでしまうかと思って怖かった、そう吐き出す彼女は、また堪えきれずに泣いてしまった。
「私、あなたの為なら毎日だってお夕飯を作るから。これからはいっしょに暮らしたいの。お願い、です。私をずっと、あなたのそばに、居させてください」
俺の右手を、両手で包み込むようにぎゅっと握り締める彼女。
「こんなことには、もう二度とさせません。だからどうか、私と、結婚してくれますか。──春人くん」
嗚呼、俺の長年思い描いてきた未来予想図では、その台詞は俺が言うべきものだったのに。
「は……はい……」
俺はただただ、男前な彼女を乙女のようにうっとり見上げて、惚けた返事をするしかありませんでした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
理想とは大幅に違うし、自分のアホで苦しい思いをしたけれど、ああ、もう、結果的に幸せやからええわ──。
-了-