第2章 待ち合わせが好きな理由
「動画は後でいつでも見られるやんか、っていうかご本人の彼氏さんが目の前に居るのに何で動画優先すんの!」
「うう、だ、だってルトさんの動画は更新されたらすぐ見たくて、昨日は帰りが遅くて見られなかったから……彼女である前に、ルトさんのファンですから、私……!」
「胸張ってドヤ顔して言うことちゃうやろ、かわいいな。いや待って、逆やろ、菜花ちゃんはファンである前に俺の彼女やろ!?」
「でもでも、今すごく良いところなんですっ、トゥルーエンドとルトさんの感想見たいんですよう……ここで一旦視聴をやめるなんて、主人公の正体が気になって気になって、この後のデートに集中出来ません……!!」
「もおおッ、俺のこと大好きか!」
「うんっ、大好きです」
ぐう! と何かダメージを受けたように唸ったかと思えば、自身の胸元を両手で押さえてベンチに座り込んだ春斗さん。ポケットにモンスターが入っちゃうゲーム風で言い表すなら『こうかは ばつぐんだ! ▼』と言った感じでしょうか。
彼はベンチの背凭れではなく私の肩に凭れ掛かると「はあ、敵わんなあ」そう言って深い溜息を吐き出した。
「……レトルトくんの動画見終わったら、ちゃあんと、春斗くんの方も構ってな?」
ぐりぐり、と私の頭に自分の頭を擦り付ける彼は、何だか甘えん坊さんの大きな猫ちゃんみたい。
「勿論ですよ、ありがとう。そうだ、春斗くんもいっしょに見る? イヤホン片方貸してあげるよ」
「えぇッ、俺は編集で嫌という程に見たし聞いたしええよお……。あ、でも、ひとつのイヤホンをふたりで分けて付けるって、めっちゃ恋人っぽい」
「ふふっ、はい、片耳どうぞ」
「ん、あんがと!」
不機嫌になったり上機嫌になったり、ころころと感情の変わる彼はやっぱり見ていて側にいて楽しいし、大好きだなあと思うのです。
彼のことを想いながら、彼の動画を見て、彼を待つ時間。身も心もあなたでいっぱいになれるような気がする。今日は珍しく彼と寄り添って見る事になったけれど、嗚呼、とってもしあわせ。だから私、待ち合わせが好きなんです。
-了-