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【実況者】蟹の好きな花【rtrt夢】

第9章 恋する風邪っぴき


 気付いたら、見慣れた天井が目の前に広がっていた。びっしょりと汗をかいたせいで寝間着の中が湿って嫌な感じがする。すぐにいつも寝ているお布団の中だと気付いた。
 いつの間にか私はお布団の中で眠っていて、春人くんがお見舞いに来てくれたことは夢だったのか、なんて思った。でも、右手に私と同じ子供の小さな手のぬくもりを感じて、私はゆっくり右へ顔を向ける。ぼやける視界の先に、目元を赤く腫らした彼が居た。居てくれた。

「菜花、ちゃん……! よ、よかった、よかったあ……!! ぐすっ」
「……また、泣いてる」
「う、うっさい! いっ、いきなり目の前で倒れるからッ、ほんまっ、びっくりしたんやからな!? もお!!」

 彼は昔から泣き虫なんだ。私に何かあると、すぐに泣いてしまう。ちょっと転んで膝を擦りむいただけでも、何故か怪我をした私以上に泣きじゃくってしまうのが、彼だった。

「わたし、たおれた、の?」
「うん。びっくりした。死んだかと思った」
「い、いきてるよう」
「おれ、なんとか布団まで菜花ちゃん運んだけど、もうどうしたら良いかわからんくて、オカン呼んでもうたんやけど、その……ごめん、ね」

 何故、彼が謝るのかわからなかった。私が「帰って」なんて言ってしまったから、かな。寧ろ謝るべきは私の方なのに、彼の母親にまで迷惑をかけてしまって。だけど、ここで謝ることは違う気がした。

「たすけてくれて、ありがとう。春人くん。お母さまにも、お礼、しなきゃ……」
「わ、わっ! こらっ、無理に起きるなー!!」

 起き上がろうとする私の両肩を掴み、ぐぐぐっと布団へ押さえつける彼。身体の弱っている私ではちっとも抵抗出来なかった。
 そこへ部屋の扉が開いて、騒ぐ声を聞きつけたらしい彼の母親が入って来た。私を見ると、目を覚ましたことに安堵したのか、ほっと微笑みかけられた。彼と一緒に布団の横へ正座する。

「ぁ……あの、わたし……」

 私がなんと謝れば良いか迷っていたら、ふわり、と頭を撫でてくれた。

「うーん、まだおでこ熱いねえ。もうひとりで無理したらあかんよ、菜花ちゃん。あなたのお父さんには電話をしておいたから。今日は早く帰って来てくれるって、良かったねえ」

 泣きそうなほど、やさしい手だった。
 
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