第6章 怖がりさえも愛おしい
「ふふ、ありがとう……」
「他にはしてほしいことないん?」
「え、他? 他には……えっ、とね……ちゅー、してほしい」
どきんと心臓が跳ね上がった。
恐る恐ると言った様子で上目遣いに俺を見つめる彼女。その目に少しだけ加虐心が煽られて、ちゅっ、とわざとらしい音を立てて彼女の額に口付けた。
「あうっ……う、嬉しいけど、違います……」
「えー? おでこじゃあかんの? はっきり言ってもらえへんとわからんなあ」
「い、いじわルトくんだー」
ひどいよー、と真っ赤な顔で頰をふにふに突いてくる彼女。俺は相変わらずニヤける頬の緩みを堪えられない。ほんま可愛いなあ、なんて和んでいたら。
彼女はもぞもぞとベッドの中で身動ぎ互いの顔の位置を近付けると、油断していた俺の口に、ちゅっと音を立てて、しかしすぐに離れていった。唖然としている俺を、彼女は「えへへ」と照れ臭そうに笑っている。
「あーっ、もおー! かわいい!!」
「ぐぇっ」
可愛さのあまり、ぎゅうううと彼女を目一杯強く抱き締めてしまった。カエルの潰れたような呻き声さえ愛おしくて、ほんま、もう、どうしようこの子かわいすぎる。
駄目だ、我慢出来ない。俺は彼女の身体を解放してあげた後、ベッドに肘をついて体勢を変えて、彼女の上に覆い被さった。何か察した彼女はビクリと身を震わせたが、はい残念、今頃身の危険を察しても逃げ道はありません。
「ところで、菜花ちゃん」
「は、はい?」
「知ってる? お化けってな、エロい話が嫌いなんやって。下ネタとか」
「そ、そう、なんですか?」
「うん。せやからなー、スケベなことしてたら絶対お化けなんか寄って来おへんと思うんですよー」
「え、エロルトさんになってる……!」
「ふふん、菜花ちゃんがあんまり可愛いことばっかりして煽るから、悪いんやでー?」
彼女のパジャマのボタンに手を掛けながら、そっと耳元に顔を近付けて囁いた。
「もう少し、夜更かししよう、な?」
「……ルトくんのえっち」
そんな可愛い悪態をつかれたが、彼女は頬を赤く染めて瞳を色っぽく潤ませながら、優しく微笑んでいる。拒否するつもりは、無いらしい。
嗚呼、明日は昼過ぎどころか夕方の目覚めになりそうだ。
-了-