第4章 全身ラジオ〜幼馴染みの話〜
「お花ちゃん、かあ」
先日更新されたばかりの全身ラジオを聞き終えた私は、熱くなった両頬を両手で押さえながら、ふーっと身体を冷ますように長く息を吐き出した。
恋人になってからのレトルトさんは実況動画内で時々、私が妙なドジをした話や私も覚えていない幼い頃のエピソードを、面白可笑しく話してくれることがあったけれど。私という幼馴染みの存在を視聴者さんたちに広く知られたのは、この全身ラジオがきっかけであることは間違いない。でも、こんな素敵なイメージやあだ名を頂けたことは、照れ臭いながらも嬉しいものです、正直なところ。
今回の全身ラジオでキヨさんが私の存在をさり気なく話してくれたことにより、幼馴染み妄想説で揶揄われることも随分と減ったようで、そのことについては私よりもレトルトさん──春人くんの方が喜んでいるみたい。
「菜花ちゃん、ちょっと来てー」
「うん、なあに?」
台所で作り置きの麦茶を飲んで火照った身体を冷やしていたところに、パソコンとにらめっこしていたはずの彼から声を掛けられて、麦茶片手に居間へ向かった。
画面を見てほしいと促されたので、彼の隣にぴったり座って覗き込む。
「あ、ドット絵描いてたんだ。可愛い、新キャラ? お花がよく似合って──」
そこまで言って、はっと気が付いた。
画面の中に居たのは、足元までつくほどの長い黒髪に大きくて真っ赤な花飾りを付けて、ほのぼの笑った顔文字みたいな仮面を付けた二頭身の可愛らしい女の子。
彼の方を見ると、得意気にニンマリ目を線にして笑っている。
「──も、もしかして、わたし……ですか?」
「へへー、描いちゃった」
ま、これを公開するかどうかは未定やけどね。そう話しながら再びパソコンに向き直り、絵の続きを描き始める彼。今度は小さなお花のキャラクターを描こうとしているようだ。
「現実の春人くんには可愛い彼女がおんのに、こっちのレトルトくんはひとりぼっちなんて、可哀想やからな〜」
「な、なるほど?」
よくわからないけど、気分の問題らしいです。
趣味の中でも私の存在を大切にしてくれる、その気持ちはとっても嬉しいけれどやっぱり照れ臭い。でも、彼が楽しそうなら良いかなあ、と結局何も言わず許してしまう私は、ちょっと甘過ぎるのかもしれません。
-了-