第1章 毎日
「は~い、マリエちゃんお疲れ様!」
「お疲れさまです」
「このあとはもう予定入ってないから、まっすぐ帰る?」
「うん、タクシー拾って帰ろっかな。
今日はゆっくりしたいー」
マネージャーのアイがすでに荷物をまとめていたので、マリエはスタジオをすばやく出ることができた。特別急ぎたい理由もないが早く帰りたい気分だったので、そんな彼女の気持ちを察知できるマネージャーは長年の付き合いなだけある。
「アイちゃんも乗っていこ?あっまだ仕事あったかな」
「いいえ、お言葉に甘えて乗っちゃいマス」
マリエよりも5つほど年上のアイだが、彼女に劣らずの童顔でピンクのチークがとても似合う。マリエのマネージャーがアイにとって初めての仕事であった。初めは仕事が取れなかったり、うまくほかのスタッフとコミュニケーションがとれず、マリエも仕事がやりにくい状況が続いていたが、今ではてきぱきと仕事をこなしスケジュールも無理なく埋めていく、できるマネージャーへと成長している。
「マリエちゃん、最近お出かけしてないよね、いつもまっすぐお家帰って。
もしかして彼氏?」
「えっ、それはないって!」
「もう21歳になるんだっけ?彼氏の一人や二人いてもおかしくないでしょ~」
よく仕事で会う芸能人の名前を挙げて、あの人は誰と付き合ってたやら仲が良いやら教えてくるアイ。マリエはそんなことには全く興味がないようでタクシーから見える高い建物ばかりの見慣れた景色をぼうっと見ていた。
「あ~あの泰士さんって人でしたっけ」
「まっまだ覚えてたの!?」
あの時マリエはうっかり、本当にただうっかりしていたのだ。アイと一緒に初のドラマ撮影が全部終わり2人でもひっそりと打ち上げした日のことだ。その時もアイは彼氏がどうのこうのと話しており、口を滑らせてマリエは彼の名前を出してしまった。
「連絡してないの?」
「この話はしないのっ」
連絡なんてあの町から出てきて、ずっとしていない。
する勇気などなかった。自信も。
「少し教えてくれてもいいんじゃない?付き合ってたの?」
無視を決め込むマリエ。早くこの時間が過ぎ去ってしまえと祈っていると、タイミングよくアイのマンション近くについた。