第7章 冥土カフェへようこそ【トド松】
桜ちゃんと名乗った女性の指差したほうを見る。
地獄の風景と全く合っていない可愛らしい洋風の建物が目に入った。
まるで絵本にでも出てくるようなピンクの屋根に白い壁。正面にはテラス席まであるが、地獄の風景を見ながらお茶しろとでも言うんだろうか。
花で飾り付けられた看板には、
『冥土cafe じごくのいっちょうめ』
と書かれていた。
「め、冥土カフェ……?」
冥土って、メイド? 確かにこの女の子もメイド服着てるし、そうゆうこと? え? え? え?
「ウフフッ、お兄さん、逃げてきたんでしょお? たまにいるんですよぉ。本当は見つけたらすぐに通報しないといけないんですけどぉ、特別ですぅ。何か飲んでいってくださーい」
顔は可愛いけど、喋り方が残念すぎる。あざとさでは、ボクも人のことを言える立場じゃないけど、さすがにこんなに酷くない。職業柄なのか、元々こういうキャラなのか……。
「あのさ、本当に通報しない? ボク、疲れ切っていて少しでも休みたいんだよ……」
店に入った途端、通報されて針山地獄にトンボ返りなんて、たまったものじゃない。
桜ちゃんはボクを上から覗き込んだ。
「え〜桜が嘘ついているように見えますぅ?」
メイド服の開いた胸元が目の前に来る。ちらりと見えるピンクのブラジャー。ボクは慌てて目を逸らした。
「い、いや、そうは見えないけど、念のため……」
「そんなに警戒しないでも大丈夫ですよぉ? 今はお店に桜一人なので。とりあえず、どうぞっ」