第5章 死んだらキミに恋をする【一松】
そんなことを考えていると、次の死者が恐る恐る歩いてきた。
「お願いします……」
緊張した細い声。
顔を上げたおれは、声の主を見て固まった。
「は……? お、女……!?」
目の前に立っていたのは、同い年くらいの女性の死者だった。
え? 女? 女の死者も来ることあるの? おれがこの人の乳首をちぎるの!?
おれは呆然と彼女を見つめた。
この係になってから、男の死者の乳首しかちぎったことはない。まさか女性が来るとは思ってもいなかった。
女性もおれの顔を見て、ギョッとする。
「きゃっ!? 鬼じゃない!? だ、誰!?」
おれは慌てて、鬼の着ぐるみを脱ぎ捨てた。
「怪しいものじゃないから! おれも死者だから! 乳首ちぎる仕事をやらされているだけだから!」
「えっ、あなたも死者なの?」
女性はジロジロとおれを見回す。
「うん……おれは松野一松。あんたは? そんなに若いのに何で死んだの……?」
見たところ、スタイルもいいし、顔も可愛い。圧倒的最底辺かつ暗黒クソ闇地獄の住人のおれとは違い、もし生きていれば、それはそれは光り輝く素晴らしい人生を送ったに違いない。もったいない。
「私は桜。先週、交通事故に遭って死んじゃったの。大学サボって遊んでたから、地獄に堕とされちゃった」
桜は、エヘヘと笑う。
「へぇ……大学ねぇ……」
そんな理由でも地獄に来るのか。なかなか厳しい。