第1章 あの世であなたを脱がせたい【おそ松】
「私は桜です。では、服を脱いで頂けますか?」
事務的に言うと、おそ松と名乗った男性は「はぁっ!?」と声を上げた。
「ここで私は死者の服を奪わないといけないんです。でも、まだ慣れていなくてうまく奪えないので、ご自分で脱いで頂けたら助かるんですけど……」
「服を奪う……?」
おそ松さんはぽかんと口を開けた。
三途の川を渡りきったほとりには、鬼の奪衣婆さんがいて、死者たちの衣服を剥ぐことになっている。奪った服を木に掛けて、罪の重さを量るのだ。
私は奪衣婆さんの下についたばかりの新人。奪衣婆さんは、たまたま席を外していた。
「つまり、おねーさんが俺の服を剥ぐの!?」
おそ松さんは、目を丸くした。
「はい、ですから、さっき言ったように、ご自分で脱いで頂けたら助かるんです。申し訳ないのですが、まだうまくできないので」
途端におそ松さんは、ニヤ〜ッと頬を緩めた。
「やだねっ!」
「え?」
「おねーさんが脱がしてくれるんでしょ? 自分で脱ぐなんて、もったいない! 早く脱がせてよぉ! 慣れてなくても逆にそれがいい!」
「そんな……」
ヒヨッコの私は、まだひとりで死者を脱がせたことがない。私しかいない時に死者が来るなんて……。本当にツイてない。
「ほらほら、早くしてよぉ、新人ちゃん! 俺、いつまで経ってもエンマ様のところに行けないよ? 脱がせ方なら教えてあげるからさぁ!」
おそ松さんは、ニヤニヤしながら私を小突き出した。
「でも、奪衣婆さんみたいに乱暴に剥ぐなんて、まだできないんですけど……」