第6章 サイファーポールNo.9
思いのほか順調にアヤの船旅は進んでいた。
シャボンディタウンまでは残すこと半日足らず。
「お嬢さん、暑くないのかい?」
シャボンディ諸島の気候は夏島に近い。
既に気候は暖かなものになり始めており、隣の席に腰かけていた中年男性がアヤを気遣い声をかける。
「大丈夫・・・!寒がりなんです。ありがとうございます。」
曖昧にほほ笑むと、訝し気に男性がフードを覗き込む。
すると驚いて目を見開き、おぉ・・・と感嘆の声を漏らした。
アヤは何かおかしな言動をしてしまったのかと思い、びくりと肩を揺らした。
「あんた・・・すごいべっぴんさんじゃないか!もしかして、女優さんかい?!」
「え・・・っ?!」
(女優さんはこんな大衆向けの席に座らないと思いますけど!?)
自身の容姿に対して無自覚なアヤは、やや斜め上の方向へ内心突っ込みを入れた。
「なあ・・・!よく顔をみせておくれよ!なんなら、サインを・・・!」
しつこくにじり寄る男性に、アヤは慌てて立ち上がった。気づけば周囲にいた客からも視線が集まっている。
(は、離れなきゃ・・・!)
アヤが慌てて立ち上がったとほぼ同時に、船体がぐらりと大きく揺れた。慌ててバランスを取る。
立ち歩いていた乗客が何名か尻餅をついていた。
荒波に飲まれたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
ずしん、ずしんと何か叩きつけるような重低音が響き、大きな揺れが何度も襲う。次第に乗客達は悲鳴を上げ始める。
(普通じゃ、ない・・・!)
『船が襲撃を受けています!!
現在船員が対処していますので、乗客の皆様は速やかに地下のクロークに身を隠して下さい!!』
船内アナウンスが流れた途端、あちこちから悲鳴が上がり乗客達は我先にと走り出した。
「何してんだ!お嬢さんも早く・・・!」
通路で立ち止まっているアヤに先ほどの中年男性が声をかけながら走り抜けて行った。
(船員が応戦してるってことだよね・・・?戦力的には問題無いのかな・・・。)
船が沈んだ所ですぐに救援は来るだろうが、泳げないアヤにとっては海水に浸かってしまうだけで一大事だ。
船体へのダメージを避けて速やかに対処できないようであれば自身の身が危ない。