第1章 心樹アヴェル
イーストブルーにある小さな島で静かに暮らす王族がいた。
その王族が代々守り続けて来たのは、一本の大樹。
厳重な城壁の中央に位置する広大な中庭に樹は祀られていた。
天を切り裂く程巨大なその樹は、城を守るように枝葉を広げ、まるで城自体が一本の木のようであった。
“心樹アヴェル”
宝樹アダムと陽樹イヴ以外に存在している世界樹については殆ど謎に包まれている中、心樹アヴェルはそのアダムとイヴの枝葉から生まれたという言い伝えのもと、ひっそりとこの城で守られ続けてきた。
城内の大樹が世界樹だと知るのは王族の中でも限られた者だけ。
アヤは、この城に王女として生まれた時からこの樹が好きだった。
樹の根で昼寝をしたり、読書をしたり、時には樹に話しかけるなど王宮内の者からすればとても微笑ましいものであったが、ただ一人、国王だけはそれを良しとせず、見つければすぐにアヤを中庭から連れ戻した。
アヤが6歳の誕生日を迎えてしばらく経ったある日のこと。アヤは樹の上に、小さな少年を見た。
嬉しそうな顔で話すアヤだったが、その少年がアヴェルと名乗ったと聞き、国王は血相を変えて城の者達に命令を下した。
“アヤは、あの霊木に魅入られている。近づけてはならない”と。
幼いアヤにはその樹が世界樹である事は勿論、アヴェルという名がある事すら伝えていなかったのだ。