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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


「へっ!?」

「氷雨センパイ、ヘルプミーですー」


 間延びした声音とは対称的に、うるうると瞳を潤ませたフランは、細い腕には似合わぬ力で氷雨と自分の立ち位置を反転させる。そう、ちょうど部屋の出入口である扉へ彼女の背が向かうように。
 再びバン、と耳障りな音を立てて扉が開くと、ナイフを手にしたベルフェゴールが現れた。スクアーロと氷雨はそれだけで全てを察してしまう。
 ぎゅう、と彼女に抱きつくフランの腕に力が入る。


「フランてめー……その趣味のわりー幻覚をさっさとやめろ。殺すぜ」

「もう既に殺る気満々じゃないですかー」


 怖いですー、と言って氷雨に擦り寄るわりにフランの声色は至って落ち着いていて、むしろベルフェゴールをおちょくっているようにさえ聞こえた。
 ベルフェゴールは、ひくりと表情を引きつらせるとコートのポケットから大量のナイフを取り出す。


「なら、その幻覚ごと針千本のサボテンにしてやるよ…!」

「えっ!?ちょっと待って、ベル、サボテンはダメ!!」

「ししっ、幻覚に命乞いさせるとはおまえも堕ちたな」

「幻覚じゃないからー!!」


 氷雨は慌ててフランの羽交い締めから抜け出そうと身を捩るが、がっしりと引っ付いた少年は離れようとしなかった。盾にする気満々である。
 彼女は、スクアーロへと目を向ける。視線が合ったスクアーロは、至極面倒そうな顔をした。けれども、ここで戦力が更に削られるのは得策じゃねぇか…と判断すると、渋々ながらベルフェゴールに向かって口を開いた。


「ゔぉおい、ベル!コイツは本物の氷雨だぞぉ」

「……本当かよ」

「あぁ、たった今ボンゴレから戻って報告を受けていたところだ。そこにフランが飛び込んできやがった」

「ふーん……」


 ベルフェゴールは、手にしていたナイフを懐にしまった。上から下まで違和感を探すように氷雨の姿を観察する。
 正直なところ、まったく判断がつかなかった。しかし、スクアーロがフランを庇う理由などないことを加味して考えれば、おそらく奴の言葉は嘘ではない。ベルフェゴールは、自然と口角を上げて笑う。


「遅かったじゃん、待ちくたびれたぜ」

「……うん、ただいま帰りました」

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