第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
スクアーロは、訝しげに眉を寄せる。ボンゴレの反攻作戦を明晩に控え、ヴァリアー本部へと舞い戻った氷雨からの報告は、彼の予期していない内容だった。
「ベルの兄貴だァ?」
「本人曰くだけどね」
「本物か?」
「幻覚にしては出来が良すぎるかな」
「ふむ……こっちには、判断材料が少なすぎるな」
氷雨は頷いた。平時であれば、比較的重要視される内容だが、今はそれどころではない。
スクアーロは、眉間に寄せる皺を増やす。
「それよりもボンゴレだ!お前の話じゃ当初想定していた戦力に満たねぇぞ」
「……頑張ったんだけどね……」
こちらで把握していたよりも遥かにボンゴレ狩りが進行していた、としか言いようがない。氷雨は困ったように眉尻を下げる。
スクアーロは、チッと舌打ちをするとガシガシと頭を掻いた。
「……作戦を下方修正する。二時間後に会議だぁ、それまでに修正案を考えてこい」
「えっ私?」
「てめぇが用意できなかった分だろうが!穴の埋め方もてめぇで考えろぉ!!」
「む、無茶苦茶な……っ」
「文句あんのか!?」とスクアーロが凄む。
氷雨は、盛大にため息を零した後で「了解です、隊長」と言って敬礼してみせた。それほど規格外な修正を要求されていない、ということで良しとしよう。
うーん、と悩むように頬へ手を当てる彼女に、スクアーロは思い出したように言葉を続ける。
「さっきの件だが。ベルの奴には話すんじゃねぇぞ」
「……いいけど、黙っとく必要ある?」
「仕事中に、そいつを探しに行かれたんじゃ迷惑だからなぁ」
「さすがにベルでもそこまでは」
ーーやりかねないかもしれない。氷雨はそれ以上なにも言えなくなってしまった。
わずかな沈黙をぶち壊すように、バタンと大きな音を立てて広間の扉が開く。二人がそちらへ目を向けると、フランがそこに立っていた。少年は、部屋にいた二人を認識するなり駆け出したかと思えば、あっという間もなく氷雨に抱きついた。