第3章 (1) Forget-me-not
それから宮瀬さんはいろんなことを教えてくれた。
ここに植えられてる花たちの名前や、勤め先にある庭園のこと、そこにはこの庭よりもたくさんの花たちが宮瀬さんの手で育てられていること。
内容はもちろんだが、何よりも楽しそうにそれを話す宮瀬さんの表情が印象的だった。
「泉さんはどの花が好きですか?」
「えっと、初めて見た時から惹かれた花があって。この小さい淡い青の花なんですが、名前が分からなくて」
そう言って私は昨日も好きだと感じていたあの花を指さした。
育てている宮瀬さんはもちろんすぐその花の名前が分かるようで
「それは勿忘草ですよ」
「勿忘草…!」
「実は僕も一番好きな花なんです。僕達気が合いますね。」
そんな風に言われるとなんだか照れてしまう。
宮瀬さん、言い方がいちいちロマンチックでまるで王子様みたいだ。
「泉さん、もしあなたが良いなら…」
「?」
「…これからも僕のいない間、この庭のお世話をしてくれませんか?」
「えっ!?」
突然の嬉しいお誘いに思わず声がうわずってしまう。
「わ、私なんかが良いんですか…?」
「はい。あなたみたいな優しい人にお世話してもらえると花たちも喜びます。…本当は、僕のいない間だけじゃなく僕のいる間にも来て欲しいくらいですが」
「へっ」
「花だけでなく、僕にも会いに来てくれますか?…なんて「来ます!絶対!」
宮瀬さんがあまりにも嬉しいことを言うものだから、つい食い気味に答えてしまった。
正直自分気持ち悪い。
だが宮瀬さんは、そんな私にも引くことなく嬉しそうに微笑んだ。
突然の出会いに、温かい約束。
私のテンションは急上昇していた。
これからもこの庭の花たちに、宮瀬さんに、会えるんだ…!
…しかし、そう喜んでいたのもつかの間。
数日後にかかってきた従姉妹、玲ちゃんからの電話により私は絶望の淵に突き落とされることとなる。
.