第8章 (6)Hot & cold
急上昇した体温を下げるため、急いでロールアイスを口へ運ぶ。
「あ…美味しい」
実は初めて食べるロールアイス。
まろやかなアイスと甘酸っぱい苺の果肉が口の中でとろける。
桐嶋さんが選んだトッピングも良いアクセントになっていた。
「桐嶋さん!このトッピング最高!美味しいです!」
「だろ!流石俺様のちゅろすだな!」
…チョイスって言いたかったのかな…。
何はともあれ本当に美味しい。適当にロールアイスって言っちゃったけど、これにして正解だった。
「なぁ、透。俺にもひとくちくれよ」
「いいですよ。今渡しま…」
アイスを渡す、と言いかけて桐嶋さんが何故か口を開けてスタンバイしていることに気づく。
「あー」
こ、これは俗に言う、あーんってやつだ!恋人たちがやる、あーんってやつだ!
「そ、そんな桐嶋さんいきなり…」
「何やってんだよ。早く口入れろ、アイス溶けちまうだろ?」
その言葉で何となく私は察した。
この人、下心もなければ何も考えてないんだな…と。
「(この間から思ってたけど桐嶋さんって私のこと女だと認識してないよね…。なんかそれはそれで悲しいぞ…)」
「ほら、早く」
「あー、もう分かった!分かりましたよ!」
もうやけくそだ!相手は何も考えていないんだ!女を見せろ私!
意を決して桐嶋さんの口の中にアイスを運ぶ。
その手に握られたスプーンは異常に震えていた。
「あー……ん。お、美味いなこれ」
そんな事はつゆ知らず。
私の決心のアイスはすぐに桐嶋さんの胃の中に消えていった。
私のさっきの緊張は…一体…。
「いやー、本当に今日透に会えて良かったぜ。買い物も捗ったし、美味いアイスも知れたしよ!ありがとな!」
太陽のような笑顔がこちらに向けられる。
先程女の子たちも言っていたが、桐嶋さんは見た目は怖いが本当にかっこいい人だなと私も思う。
…特に今みたいな笑った姿は。
「私も、今日桐嶋さんとこうしてお出かけ出来て良かったです」
思わず笑顔に見とれてしまい、恥ずかしさで体が硬直した。絞るように小さい声で必死に桐嶋さんに言葉を返す。
再び火照ってしまった頬を誤魔化すように、私はまた急いでアイスを口に運んだ。
ちなみにこの時ばっちり間接キスしていたことに透が気づくのは、帰宅してからのお話。
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