第8章 (6)Hot & cold
「やっぱり絡まれてたか。ったく、コバエみたいにたかりやがって……災難だったな。大丈夫か?」
「はい…すみません、助けてくれてありがとうございます」
驚きのあまり桐嶋さんへの返答がワンテンポ遅れる。
まずどうして桐嶋さんがここに…。さっき撒いた筈なのに…。
「あの、桐嶋さんはどうしてここに?」
「いやよ、さっきカナメと電話で話してたらお前の姿を見かけてよ。ちょうど聞きたいことがあったからそのまま後追っかけてきた」
あの時からばっちり気づかれていたのか…。
「んで、追いついたと思ったらお前が変なのに絡まれてたってわけよ」
「すみません…無視してたんですがしつこくて」
「あー…まーあれだ。お前小動物感あるしな」
「どういう意味ですかそれ…」
「ぽめらにあんってのか?無視されても威嚇されても全くおっかなくねぇし、むしろ構いたくなる」
「貶してますよねそれ!?」
ポメラニアンという例はとても可愛いらしいが、ようは単に全く怖くないし迫力もないということだ。
そりゃ、桐嶋さんと比べたら月とスッポンの差だろうけど…!
桐嶋さんを見ると、怒っている私を見て「そういうとこ」と言わんばかりに笑っていた。
その笑顔がとてつもなく輝かしくて、なんだが私が馬鹿みたいに思えてくる。
「はぁ〜…私の負けですよもう。で、聞きたいことってなんですか?」
このままではキリがないと思い、話を少し前に戻す。
私の言葉を聞いて桐嶋さんも要件を思い出したようだ。
「実はよ…」
それから桐嶋さんは事の経緯を話してくれた。
なんでも、先日助けた猫の怪我が治るまで九条家で面倒を見ることになったのは良いが、猫を買うために必要なものが圧倒的に不足してるらしい。
タイミング悪くいつも買い出しを担当している宮瀬さんは忙しく、必然的に猫と私を連れてきた桐嶋さんが買い出し係になったらしい。
しかし、あろう事か桐嶋さんは猫用品がどこに売っているか全っく調べないまま外出し、結局どこに行けばいいか分からずカナメくんに電話していたようだ。
その時偶然私を見つけ、今に至る。
「頼む、一緒に買い出し付き合ってくれ!カナメも「やだ」の一点張りだしよ…」
そう言って桐嶋さんは困ったように眉をきゅっと下げる。
猫の為の買い物ならもちろん私も付き合いたい。私はすぐに桐嶋さんのお願いにイエスと答えた。
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