第6章 (4)Housemaid
治療費の肩代わり。それはとても魅力的なお話だった。
しかし、私は今日だけでこの家の皆さんにたくさん助けられたのだ。
もうこれ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかない。
そう思ったその時。
「では、泉さんをこのお屋敷で雇うというのはどうでしょうか」
ぽんっと手を合わせながら宮瀬さんがサラッと衝撃的なことを言い出したのだ。
それはここにいた誰もが想像しなかった出来事で。
「私がこの屋敷で働く!?み、宮瀬さん何言って」
「ちょうど使用人がもう1人ほしいと旦那様と相談していたところだったんです。治療費を肩代わりする代わりにここで働いてもらうんです。もちろん給料も出します。泉さんは気遣いもできますし、とても向いてると思うんですが」
向いてるってそんな簡単に…!
しかも給料も出るって流石にそれは都合が良すぎるんじゃ。
九条さんもこれは流石に断って……。
「豪がそう言うなら良いだろう。お嬢さんもそれで納得できるかな?」
待ってさらりと受け入れちゃったよ!?
もしかして九条さんは宮瀬さんに甘いのかな…。
「でもっ、そんなっ、悪いです!!」
「泉さんにとってもかなり良い条件だと思いますが…」
「好条件過ぎて申し訳ないんです!!」
「うーん…では言い方を変えますね」
そう言うと宮瀬さんは私の隣へと歩み寄ってくる。
そして何をするかと思えば、突然唇を私の耳元へと近づけた。
「み、宮瀬さん!?」
「泉さん、約束してくれましたよね。僕の庭の世話をしてくれるって」
「は、はい…」
「じゃあ、僕と一緒にこれから使用人としてこの家の花を世話をしてくれませんか?あの庭の代わりに。」
か細く柔らかい声で囁かれ、体が硬直する。
「約束、してくれましたもんね」
ふっ…と耳に甘い吐息がかかる。
しかもそんな、この間の約束を持ち出されたら…持ち出されたら…!
「…わかりました……」
私に選択肢などなかった。
「やった!嬉しいなぁ。これからよろしくお願いしますね、泉さん」
泉透。
就活失敗して、まさかの使用人になりました。
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