第4章 (2)White cat
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トレーニングの帰り道、九条さん家の近くの山道で突然女に声をかけられた。
「助けてくださいッ!!」
「あ?」
何事かと思い振り返ると、女が血だらけの猫を抱き抱えていた。
猫は事故にあったようで大きな怪我をしており息も絶え絶えの状態だ。
しかも、よく見てみるとその白猫にはなんとなく見覚えがあった。
もしかしたら最近宮瀬の庭に遊びに来ていた猫かもしれねぇ。
宮瀬が嬉しそうにその猫と会話していたのを思い出し、放っておけない気持ちになる。
「あ、あの…」
「お前どうしたんだよ、その猫」
「私が見つけた時には既に怪我していて…助けたいんですが電話も繋がらないし病院の場所も応急処置の仕方も分からなくて…」
女は自分のことなど気にせずに、ずっと猫を抱きしめていたのだろう。
その証拠に女の真っ白なシャツは猫の血で鮮血に染まっている。
九条さんに怪しいヤツとは関わるなと言われていたが、コイツは悪いヤツじゃねぇと俺の勘がそう言っていた。
それにこのまま猫が死んだらきっと宮瀬も悲しむ。
「その猫、貸せ」
「えっ」
「えっ、じゃねぇよ。止血すっから貸せって言ってんだよ」
俺がそう言うと女は安心した表情を見せた。
女から猫を受け取り止血を始める。
流石に人間と体の作りが違いすぎて気休め程度だが、これで少しは持つだろ。
「すごい…止血上手いですね」
「ボクシングやってたからな。自然と簡単な傷の治療は上手くなるんだよ。……よし、これで止血はできてるはずだ」
「ありがとうございます!!」
「とは言ってもこれは本当の応急処置だ。連れてくぞ」
「えっ、連れてくって…?」
「俺の働いてるとこに医者がいんだよ。人間専門だが、まぁなんとかしてくれんだろ。お前も来い。そんな血だらけのままじゃ帰れねぇだろ」
俺に言われて初めて自分の惨状に気がついたらしい。
女は一瞬俺の言葉や血塗れの自分に戸惑うが、他に選択肢がないと悟り、「ありがとうございます…」と小さくお辞儀をした。
「俺は桐嶋宏弥、お前は?」
「私は泉透です。よろしくお願いします」
「おう。よっしゃついてこい」
そうして俺たちは九条さん家に向けて歩き出した。
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