第1章 Ticket
公園の中央で足を止めた坂木は、ポケットからおもむろに1枚の紙を取り出した。名刺に似た厚さとサイズのそれを、水野に差し出す。
「これ、お前にやるよ」
水野が受け取ると、それは遊園地のチケットだった。
あの遊園地は入場無料で、アトラクション毎に決められた料金をチケットで支払う仕組みだ。
混み合う券売機の前で、自分が払うと言って譲らなかった坂木。「待ってろ」と言われた水野は通常のチケットを購入したとばかり思っていたが……
「え!? こんなに余ってる!」
手渡されたそれは、回数券だった。記された残額は2000円以上。
「その……あれだ、また、一緒に……いかねぇか?」
随分と歯切れの悪い言葉が聞こえ、水野は凝視していたチケットから顔を上げた。
細い目を居心地悪そうに、揺らす坂木。
それを見た水野は、思わず肩が震えるのを必死に堪えた。それは海風が強くて寒いから。などという理由ではなく、目の前に佇む男が何だか可愛く見えたから。
坂木は困っている人に声を掛けたり、見知らぬ人に絡まれている所を助けてくれる、とても優しくて頼りがいのある人。
その反面、ポケットに手を突っ込んで歩く様は迫力があり、彼を知らなければ近寄りがたいと感じるだろう。