第1章 Ticket
夜景が売りのこの町は、こうした造りの店が非常に多い。
このダイニングバーも例に漏れず、カウンターの向こうが一面ガラス貼りになっている。せわしなく輝く観覧車を切り取り、訪れた人々を楽しませるのだ。
黒を基調とした店内にはシックな音楽が流れ、テナーサックスの旋律が訪れた人々の鼓膜を揺らす。
「どうした坂木?」
そんな店内に似つかわしくない、怪訝そうな声が響いた。
緻密に計算された間接照明が、声の主を淡く照らす。岡田は小首を傾げながら、隣に座る坂木の視線を追った。
「なんだ、女が絡まれてるのが気になるのか?」
岡田は坂木の視線の先に気づき、心底どうでも良さそうに上体をソファーに沈めた。
そこには若い女性が一人。そして、その横に腰かけ彼女へ必要に話しかける金髪の男の姿。
この2人は決して仲睦まじい関係などではなく赤の他人だ。男の方は坂木の隣で飲んでいる連中の1人。女に話かける為いそいそと歩いて行ったのは、今から数分前だ。
坂木がテーブルに残った金髪の仲間を横目で見ると、女を見ながら品なく笑い「こっち来るかな」「可愛い」なんて無粋な声を上げている。
思わず、胸糞悪い。とテーブルに置かれた箱から煙草を引き出し火をつけた。