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初恋は金木犀

第1章 初恋は金木犀




少し日が傾くのが早くなった。日中はまだ、じっとりと刺すような日差しだが、その中にも少しずつ秋の気配を感じる。威勢よく鳴いていたセミたちの大合唱も、今では思い出となってしまった。また、ひとつ、また、ひとつと、全てが夏の終わりを告げていた。

あれだけの盛り上がりを見せた運動会も、終わってみればあっけない。もうしばらく経てば、文化祭や芸術鑑賞会などが始まるが、まるで今は、学校全体が次の季節を待つかのように、しんとしていた。


見上げるも追い付かないほどの、青く高い空。その間を吹き抜ける、冷たい風。


そんな、文学チックな物思いに耽りながら、は、帰りのホームルームを片耳に、ぼんやりと中庭を見下ろしていた。辺りをなんとはなしに、見つめていると。


(……あ、金木犀)


中庭に金木犀が咲いているのを見つけた。

たしか、金木犀は9月下旬ごろに花を咲かせる。黄色の小さな可愛い花に似合わず、その独特な甘い香りは華やかで艷やかだ。

は、金木犀が好きだった。小学生のころ、帰り道の家の軒先に見つけてから、そこを通るのが毎回楽しみだったのを思い出す。

(…花が散ったとき、悲しかったっけ)

懐かしい思い出に、ふっと思わず笑顔がこぼれた。



「っ!なに、笑ってんのっ!」

「……うわっ!」

ふいに、一番の親友の声が後ろから聞こえて、肩を思いっきり叩かれた。そのまま、肩をぐにぐに揉まれてくすぐったくて後ろを振り向く。

「ちょっと、やめてよっー」

元気ではつらつで運動神経抜群で、私とは正反対の幼馴染。

気づかぬうちにホームルームが終わっていたらしい。思い出し笑いを友達に目撃されたうえに、あまりの驚きように普段出ささないような大声。不服で友達の顔を見つめると、「は、いっつも、ぼーっとしてるんだから」なんて、笑われた。


「帰らないの?じゃ、部活行ってくんね。」


そう言って彼女は、にかっと眩しい笑顔を見せた。


「私も帰らないと。じゃあ、また明日ね。部活頑張ってね!」

うん!じゃあね!っといって、彼女は、大きなボストンバッグを担ぐと風のように教室を去った。

は別に特段の用事があったわけではない。数人の生徒がまだ残っているなか、手早く荷物をまとめ、なんとなく焦って教室を出た。

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