第13章 常闇の彼方にとらわれる(黒尾鉄郎)
電車で横並びに座って、休日これから出掛ける人達をじっと見つめる。
私達は、この中のカップルに見られているのだろうか。
ドキドキが止まらなくて、少し嬉しく思う。
恋愛映画の大きな広告が目の前に広がる。
ずっと、そんな世界に憧れていたのに、私が捕らわれたのは、随分と違うどろどろとした深い闇だった。
それは、とても心地よくて、なかなか抜け出せそうにない。
「じゃ、また、連絡する」
「…はい…」
黒尾先輩が額にちゅっとしてくれて、熱が一気に身体に走る。
「次は、メシでも奢ってやるよ」
先輩の言葉に、はっとした。
「いいんですか…?」
「美味いとこ探しとく」
笑顔で一回だけ手を振ってくれる先輩が、急に近く感じた。
それは、ほんの気の迷いかもしれない。
それでも、私にはかけがえのない思い出になった。
深い闇に捕らわれた。
飴と鞭を交互に与えられて、魅了されて、悪魔のような声で囁かれて。
私はもう、光を見ることも叶わないかもしれない。