第7章 常闇(黒尾鉄郎)
黒尾先輩に告白した。
でも、もう既に彼女がいることは知っていた。
それでも、この想いだけはどうしても聞いてほしくて、言葉にしてしまった。
桜の蕾がまだ固い、先輩の卒業式の日。
まだ咲かない花のように、私も咲けないまま折れるのだと思っていた。
「別にいいけど」
と平たくそれには返ってきた。
「いえ、付き合うとか、なくていいんです…。
先輩には彼女いるの知ってますし、ほんと、言いたかっただけですから…!」
涙を堪えながら私は懸命に今までの気持ちを打ち明けた。
本当に、悔いはないつもり。
それでも、誤魔化しきれない涙が次から次へと流れてきて、頑張って付けたマスカラが流れてしまうのが恥ずかしくて、ハンカチで目元を隠した。
「悲しいんだろ?」
先輩は、卵でも掴むかのように、優しく私の手を握る。
「そ、そんなつもりでは…!」
「いいんだ、みんな、遊んでいるだけだから」
「……っ!」
その一言に、背筋が冷えた。
今まで見てきた先輩とは、まるで違う。
無機質みたいな声や、表情が、私に警告を出しているようにすら感じる。
「…せんぱ、い……」
「好きなんだろ」
怖くて、身動きがとれなくて、私はその手に導かれるしかなかった。