第5章 姫君の憂鬱(菅原孝支)
玄関の鍵は掛かっていた。
金魚は生きていた。
ご飯を貰っているようで、少し安心した。
「ただいま」
相変わらず、返事はない。
部屋に行くと、変わらず、出たときのままだった。
戻ってきてもいいって言われているようで、安心した。
でも、私の欲しかった物はどこにもなかった気がした。
居場所とは、違う形の。
「どうだった?」
「うん、怖くはなくなった。
でも、私の欲しい物は、もう菅原くんしか用意できないから」
私はリビングのテーブルに、メモ帳でさっと短い文で書き置きをした。
『私の居場所は見つけたから、いつでもいいよ』
そのいつでもは、覚悟を決めた、という意味で書いた。
両親ならわかってくれるだろう。
「もう、縛り付けなくていいんだって。
私も、もう縛られたくないからね」
じゃあ帰ろう、と白くて細い指を取った。
「そんなわけで、菅原くん、おめでとう。
昇格です!」
「え?もうないんじゃないの?」
「そう、ないの。
だから、……名前で呼んであげる」
「それは、光栄で」
「私の部屋でだけね」
「なんで」
「……慣れないから……」