第36章 主よ甘き日々を終わりまで7(烏養繋心)
家にいつもより大分早く着いてしまって、誰もいないのが寂しくてまたそのまま泣いてしまう。
早く、ここから出なきゃ…。
学生という身分がもどかしい。
早く大人になりたいと久々に思った。
「…」
制服のまま眠ってしまっていたのを優しく起こされ、うとうととしていたのに、彼の顔を見てはっとした。
気まずさとモヤモヤで、
「なんですか…」
と冷たく言ってしまう。
「や、寝てたから…悪ぃ…」
「べつに…いいんですけど…」
今まで大好きだった手が、頭を撫でようとして思わず払い除けてしまう。
「……っ!」
そんなことしたかったわけじゃないのに、謝れなくて。
「メシ、用意したから着替えたら来いよ」
そんな態度をしてしまったのに、変わらないいつもの様子に戸惑う。
なんで、平気なの…?
やっぱり私は、ソレだけの関係なの…?
「ごめ、なさ、ご飯、今日は食べられないです…」
今にもまた泣きそうで息を詰めながら言ってしまう。
「やっぱ具合悪いのか?昨日から…」
「ちが、います…」
胸が苦しい。
一緒の空間にいたくない。
優しく頬を撫でられ、そこで私がまた泣いていることに気付いた。
慌ててその手を払って、後ろに下がる。
「さ、触らないでください…!!」
珍しく私が強く言うと、困ったような驚いたような表情をされた。
「な…昨日までは…」
「だって、私、惨めで…」
思っていたことが言葉になってしまう。
言いたくないのに…。
「他の女の人に触った手で、触らないで…」
「な、なんの…?」
「私…自分の立場をわかってて一緒にいるのに…どんどん欲張りになって…惨め…」
枕に顔を埋めて声を殺して泣いていると、隣に来て抱き締められる。
「ひどい……っ、ちゃんとそういう女の人いるのに…」
「…悪ぃ…何か傷つけちまったなら謝る」
「じゃあもう…離して…」
「ただよくわからねえんだが…俺が、誰といるのを見たんだ…?」
「…今日…公園で、綺麗な女の人と…」
「見てたのか…」
繋心さんは困ったように笑うと、泣いている私をさらに抱き締める。
「あれは仕事関係で会ってて、そういうんじゃねえよ」
そう言いながらされるキスは、タバコのにおいがするのに、すごく甘く感じた。
身体へのキスがいつもより少し痛い。
たまに噛まれてはくっきりと歯型を付けられる。
なんでそんなことするのかわからない。