第32章 主よ甘き日々を終わりまで3(烏養繋心)
「一服したし、行ってくるか」
と吸い殻を捨てながら言い、私も、また後で、と小さく手を振って別れようとした。
また朝みたいに腕を引かれて、ちゅ、と音を立ててキスされる。
朝より濃い煙のにおいがより存在感を強くする。
「っ!!!」
「……部屋で、待ってるから」
凄く真剣な眼差しで言われて、心臓のドキドキが止まらない。
全身の血液が沸騰しそうで、爪の先まで熱く感じる。
こくこくと頷いて、急いで走って逃げるようにバイト先に向かった。
「つ、付き合ってないのに、えっちって…したり…しますか…?」
なんとなく、バイト先の男性の先輩に聞いてみる。
男の人の意見が知りたくて…。
「!!!?」
「す、すみません……こんな質問……気にしないでくださ…」
「いや…気にはなるって…」
気まずい空気がお客さんの少ないレジに漂う。
「自分は、そういうことになったことないからわからないけど、基本的に好きじゃないとしないかな…って…」
おずおずと先輩はそう言う。
「ほんと、ですか…?」
「でもみんながみんな、そうじゃないからなぁ」
「うっ……」
「ちゃんはいい子だし、好き同士になってからがお兄さん嬉しいかな…って思うんだけど」
手遅れかな、と苦笑いされて、なんと返していいかわからなくて、肯定するしかなかった。
「えっと……ありがとう、ございます……。
今はまだ、怖くて聞けないし私から言えないんですけど、嫌じゃないので……」
「嫌じゃないなら、いいんじゃない?
いい思い出になったんでしょ?」
と大人な意見が返ってきた。
──嫌じゃないし、いい思い出。
ハジメテの日は、すごく緊張していてほとんど何も覚えていない。
「付き合ってもらっていいか…?」
と言われて、なんとなくお返事しちゃったけど、よくわからなくて。
身体を触られてやっとソレをするんだと思って。
でも住まわせて貰っててしかも無料で…と考えたらそのくらいなんともなかったし、何より私は好きだったから、嬉しくて幸せ、という気持ちのほうが大きかった。
もっと本当は乱暴にされるはずなのに最後まで優しくて。
でも大事に出来なくてごめんと謝ってもらっちゃって。
そんなことないのに。
言ってしまいそうな好きという言葉を何回も飲み込んで、せめて最初で最後だろうからと私からも抱きついてしまった。