第32章 主よ甘き日々を終わりまで3(烏養繋心)
身体が鈍痛で重たい。
昨夜はそこまで無理していないはずなのに、と考えながら着替えて準備を整える。
彼はもう出たあとのようで静かだった。
用意された朝食を食べながらニュースをつけると、いつも家を出る時間に近かった。
少し急ごうとしていたら、家の奥からバタバタと音が聞こえた。
「遅えじゃん」
とムスッと言われ、
「あ、ごめんなさい…」
と気まずさから顔を合わせないで言ってしまった。
これ、と無愛想に渡されたのは小さなお弁当箱だった。
お互い急に恥ずかしくなり、全く目も合わせないで受け取り、ありがとうございますと返事した。
朝から忙しいのに用意してくれたんだと思うと、すごく嬉しい。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってこい」
玄関を出ようとすると、腕を引かれ、ちゅ、とキスされる。
少しだけ煙のにおいがする。
「早く帰れよ」
と言われて外に出された。
ドキドキしすぎて顔が熱い。
今まで、夜のそういう時にしかキスされなかったから……。
そのことを思い出してしまって丸一日何も集中出来なかった。
私一人が好きだったらそれで良かったのに、どんどんそれだけだと物足りなくなってくる。
今日も、夜は、一緒にいてくれるのだろうか……。
なんて考えていたら頬が緩んでしまった。
もし、向こうはただの遊びかもしれなかったら居た堪れない…。
早く冷静にならなきゃ…。
頬をパシパシと叩いて目の前の授業に取り組もうとした。
帰ろうと思ったら駐車場に見覚えのある車が停めてあった。
「おつかれー」
と繋心さんに声を掛けられ、1日全く何も出来なかった私はびくっと肩が跳ねた。
なにか、やましいことを見透かされそうで…。
「お、お疲れ様です…!」
今から部活らしく、少しだけいつもより楽しそうに話してくれているのが嬉しい。