第29章 姫君の憂鬱5(菅原孝支)
「……避けて、ごめん。
そんなつもり、なくて」
どう正直に打ち明けたらいいかわからず、言葉をひたすら探す。
突然きたあの感情を、どう説明したらいいのか。
「さんを、傷付けてしまいそうで」
さんは、怒ったように睨み付けてから、泣きそうな顔で、ため息を吐いた。
「……それで?」
「それで、って……」
「私を放っておくほうが、何百倍も、ヒドい……」
はっとした。
傷つけたくないから、とか、苦しめたくないから、とか、全部自分のための独り善がりな気持ちで、結局、わかってあげているようで何一つさんのことをわかっていない。
そんな自分が情けなくて、焦るように儚いその存在を抱き寄せる。
「ごめん、ごめん…!!」
「いいよ、私、優しいから。
許してあげる……」
胸が凄く痛い。
お互いに苦しかったモノから、やっと解放されたと思う。
さんに対しての、この身が焼ききれそうな程の熱い想いは、いつまで抑えられるのだろうか。
それとも、見せてあげるべきなのだろうか。
これがヒトの本能というものであるならば、なんで大事な子すら守れないような残虐さなのか。
ぐっと拳に爪が食い込む。
ずっとここにいて、と笑顔で言う彼女の残酷さに、苦笑しながら従う。
せめてもの救い、今日は満月ではない。