第28章 姫君の憂鬱4(菅原孝支)
朝6時には、二人で家を出た。
さんは、父親の服を漁って、制服じゃない格好にしてくれた。
シンプルなシャツにジーパン。
結構高そうな物なんだけれど、勝手に拝借していいのだろうか。
「帰ってこない人の荷物なんて、ゴミ」
と彼女は一蹴した。
情けないことに、本当に昨日はこのまま来てしまったので、さんが自分の口座からお金をおろしてくれた。
正直、高校生とは思えない程の大金が入っていた。
「え!?」
「バイト、してたって言ったでしょ?」
「そ、そんなに稼げるの…?」
「2個掛け持ちしたらこのくらいイケる…。
でもこれ以上稼ぐとぜーきん?がかかるらしいから…あとは日払いとか…。
ちょっとイヤなお仕事引き受ければあっという間にいく」
「イヤな…?」
モヤモヤとしてしまって聞き返した。
さんはばつの悪そうな顔をしてすぐに、もうしてない、と呟いた。
それは、信じてよさそうだ。
驚いたのが、どこに行く?と聞いて、さんがなんの迷いもなく指定席窓口に向かって行ったところだった。
どうやら県外へ行きたいらしい。
指定席のチケットを2枚買い、1枚を手渡された。
そこには、東京と書かれている。
「お…思い切ったね…」
「どこでも、来てくれるんでしょ?」
確かに、そう約束した。
男に二言はない。
うん、と頷いて、電車のホームに立った。
「何したいの?」
「思いっきり、遊ぶ」
「何して?」
「買い物して、行列のできるお店に並んで、爪も可愛くして…」
それは、今まで見たことないくらい、いまどきの女子をしているさんだった。
彼女はいつも影があった。
そして、言動に似つかわしくないくらい、思考は大人だった。
それはやはり、彼女の生活環境のせいだろう。
高校に上がってから、ますますさんと精神年齢の差が広がったをことを何回も痛感した。
俺は、なんて甘えてのうのうと生活してんだろう、と。
そんなことすら、考えたことがある。
そればかりはどうしようもないことなのかもしれない。
親も子も、選ぶことなんて出来ない。
さんの御両親も、こんな風になるなんて、数年前までは思わなかったわけであるし。
それは…、仕方のないことだ。
何回もそう言い聞かせ、彼女の悲しむ姿を見て見ぬふりしていたと思う。