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【短編集】慟哭のファンタジア【HQ】【裏】

第26章 蜂蜜レモネード7(影山end)


「徹、さん……」
「……くそ…」
「待って…!」
また逃げようと立ち上がった及川さんを、さんは引き留める。
俺の走りは虚しく、さんのそのたった一言で及川さんは動きを止めた。

「私……」
「何、今更…?」
「……っ」
「俺は、お前を利用してただけ。
今更兄妹なんかに、戻れない」
さんはぐっと涙を堪える仕草をし、
「それでもいいから…、私には、徹さんしか、いないから…」
確かに、はっきりと、そう言った。
その言葉は、正直、今の俺には身を八つ裂きにされた方がマシとすら思えるくらいにツラく、痛かった。
自分がいかに、心底、この人に惚れていたかを痛感し、尚且つ目の前で、違う人がいいと言われている。
いっぺんにこんな苦しみを味わう覚悟なんて、まるで決まってなかった。
それでも、心のどこかでは、こうなる方がいいと思ってはいた。
さんに必要なのは、及川さん。
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「は、コイツが好き。
わかる、すぐにわかった。
最初に頼んだ『仕事』で、すぐに。
俺とシている時と、まるで違う顔、愛情に満ちた女の顔だ。
その後に、他の取引をしたがらなくなった。
完全に………そうじゃん」
及川さんは、まるで自分の言葉一つ一つに傷つくようにそう言った。
「私は、影山くんが好き…。
でも、徹さんは、必要なの。
ねえ、人間関係って、そんな単純なモノ…?」
さんもまた、そうだ。
人間らしい感情なんて、おおよそ今まで捨ててきた。
それを改めて教えてもらい、今、その狭間で苦しむ。
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