第25章 白昼夢幻想曲5(烏養繋心)
数日経って、どの不安も解消されないまま、猛烈な寝不足でテストを受けるはめになってしまった。
でも頭にあるのは、
(練習してない……)
という考えだけだった。
勘だけを頼りに筆をのせたが、手応えはあまりにもなかった。
頭の片隅では、ずっと警報が鳴っている。
早く練習しなさいと。
テストが明けた瞬間、ダッシュで職員室に向かって、体育館の鍵を借りた。
……そうだ、この音だ………
久々に聴いた音が、気持ちいい。
勝手に指が動く。
この感覚。
楽しい、って、ちゃんと全身でわかる。
「ほら、そのうちなんとかなるだろ?」
「…あ…!いつから……」
「最初から。
つーか!ここ数日連絡も録に返事しなかったろ!」
思いっきりおでこを指で弾かれる。
「いたいっ!!」
「……たく」
彼は椅子に座っている私を、力強く抱き締めてくれる。
「心配、するだろ……。
また寒中水泳してんのか、とか……」
あ……、よかった……。
好きなの、私だけじゃなくて……。
何故かそれが急に嬉しくて、涙が止まらなくなった。
「おい!!なんだよ…!?」
「だって……っ!!」
どう言えばいいかわからない。
言葉につまる。
ちゃんと心配してくれたところとか、いつも冷静に大人な意見くれるところとか、なのにたまにどうしようもないくらい可愛いところとか、全部ひっくるめて。
「泣くくらい、好きなんです。
幸せだなって……」
「………そーかよ」
そんな、素っ気ない返事すら、愛してやまない。