第24章 姫君の憂鬱3(菅原孝支)
「孝支くん…」
「はいっ!?」
突然名前を呼ばれ、裏返った声が反響した。
「おててが留守です…」
「ご、ごめん…」
慌てて真っ白な背中に手を回し、抱き締めると、少し顔が近くなる。
虚ろな表情も可愛い…。
いつもの愛しさや性欲とはまた違う、ぞわぞわとしているけれど、それだけじゃない感情が合わさる。
「冷えるから、出よう?」
なるべく優しく諭して声を掛ける。
最早今、彼女の何が地雷かわからない。
傷一つ、痛み一つ付けずに、なんとかしたいという気持ちでいっぱいだ。
「…ん」
タオルで彼女をくるみながら、なんとか必死に慰める方法を考える。
「ケーキ、食べようか。
さっき買ってたやつ」
「…うん」
昨今のコンビニスイーツはなかなか美味しい。
めったに食べないが、さすがに残されてしまうのは悲しい。
「食べさせて…」
と弱々しく言われ、膝にのせた彼女の口に入れた。
「おめでと」
「…おめでたいね」
さすが姫君は、落ち込んでても言うことが違う。
もう一口食べると、全体重を緩やかに預けてくる。
洗い立ての柔らかいタオルをかけ直し、顔を合わせ、
「世界中がそうじゃなくても、俺はさんがいてくれることが嬉しい」
と臭い台詞が自然と出てきてしまったのを、あとになって恥ずかしく思う。
さんが何も言わずに見てくるのも、キツい。
「なんか、言ってよ」
「さわって」
「え!」
リビングの広いソファに無理やり倒され、危うくケーキのパッケージを落としそうになる。
「まっ……」
人二人が横になっても問題なく広いそこは、1人でいるにはあまりにも寂しい。
ローテーブルに持っているものをなんとか置き、わなわなと緊張する手を薄い部屋着の下に入れる。
「…まだ、緊張するの?」
「…うん」
一生慣れることはないんじゃないか?
それくらい、大切で、愛しくて、儚い存在で。
彼女に触れられることは、まだ夢のことのように思う。
そっと、胸に体重がかかる。
軽すぎる身体が、熱を持って近づく。
顔に柔らかな指を添えられると、甘いクリームの味。