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【短編集】慟哭のファンタジア【HQ】【裏】

第24章 姫君の憂鬱3(菅原孝支)


「ごめん……も、耐えられなくて…、菅原くん最近忙しいの知ってたから…っ、でも…」
「いいよ」
「さっき、叩いて、ごめんね…、菅原くんにもお祝いされないのかな、って…」
知らなかったとはいえ、確かに恋人の誕生日すら知らなくて帰ろうとしたのは、さすがにまずかったと思った。
「おうち出ようと、したらね、金魚も、今朝、死んじゃってて、私、生まれてこなきゃよかった、って……」
なんでみんな今日なんだと、彼女は嘆いた。
自分も含め、なんて身勝手なヤツばかりなんだろうと、そう思った。
たった1人の大事な女の子の大切な日にこんなに泣かせてしまった。
「朝までいる、1人にさせないから」
さんが、我が儘言ったり、怒ったり、泣いたりするのは、自分の前だけなんだ。
その全ての受け皿として、機能してやりたいと。


ほんとに、1人にしないでよ?
と気まぐれな姫は今日は不機嫌そうに命令した。
まさか、入浴も一緒に来るなんて思わなかった。
広いバスルームに、温いお湯を張ってくれた。
予想はしていたが、さんの家は本当にお洒落で驚いた。
ガラス張りの脱衣所から木とタイルが組み合わされた通路から、清潔感溢れる青と白の壁。
(円形のバスタブ……ラブホテルでしか見たことない……)
そういえば、普段は家に帰ってから寄ることが多かったから、さんの部屋くらいしか見たことがなかった。
1人で住むにはあまりにも広く、寒く、寂しい。
彼女がこの家でどんどんと嫌気を覚え、出て行ったのはなんとなく理解できた。

ぬるま湯の中で、何も言わずに俺の胸に凭れる。
いつも見ている肌にはまだ慣れないし、緊張するし、どうしていいかすらわからない。
筒抜けになっているであろう血液の循環する音に、恥ずかしさと違う感情が沸く。
濡れた髪からする同じ匂いが、いつものことながらこそばゆい。
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