第23章 蜂蜜レモネード6(影山vs及川)
踏ん切りを付けて家に帰ったら、徹さんの雰囲気はまるで違っていた。
仮にも、家では優しかったのに、冷たい視線で見られて、耳を塞ぎたくなるほど聞きたくない言葉で叩かれた。
私の世界の常識を全て否定してくる、それはひどいもので、思い出しただけでも吐きそうになるほど。
何も抵抗できなくて、怯えながら、それに耐えた。
やめて、と、それすら言えなくて。
羽交い締めにされて、いつの間にか持っていたカッターで、繋がったままなのに私の背中に傷を入れていく。
恐怖で痛みなんて感じない。
ただ、流れていく血液が、じわりとシーツに染みを作っていくことが、胸を騒がせた。
「綺麗だったのに、もう他の人に見せられないね?
もう誰も君に興味なんてない」
カッターより深く刺さった。
だって、私の存在価値なんて、ソレしかなかったのに。
でも不思議と、徹さんに対しての怒りは一切なかった。
自業自得だと思ったから。
私が、徹さんを拒否したから。
私が、家を出たから。
私が、影山くんを好きになってしまったから。
(なんだ、私のせいじゃん……)
何も言えなくて、涙がどんどん溢れる。
「泣いてる?
ツラいよね、痛いよね。
でも、これで、離れられない」
そうだ、私がいけないんだ。
私しか、徹さんを理解ってあげられないのに。
今までの関係で、よかったのに。
「ごめ、んなさい…っ」
一瞬だけ、凄く辛そうな顔をしていたのが下から見えた。
持っていた刃を置くと、いつもの優しい手つきに戻る。
やっと背中がじんじんと熱くなった。
徹さんは自分の手が赤く染まっていくのを気にも止めず、私を抱き締める。
その優しい態度は変わらなくて、居心地がよかった。
さっきまで、あんなにひどいことを言われていたのに。
あんなに傷つけられたのに。
それだけで許してしまう私は、とっくに頭がおかしかったのかもしれない。