第20章 蜂蜜レモネード4(影山vs及川)
及川さんが卒業し、さんを監視下におけなくなったせいか、さんは家出をしたらしい。
らしいと言うのは若干違う表現かもしれない。
何故なら、今、俺の部屋で体育座りをしている張本人がいるからだ。
「………」
独特のふわっとした香りはするが、頬はこけ、痩せた身体は更に細く、そして、雨上がりの公園の遊具のような…なんとも土臭いにおいがした。
泥だらけのさんは、そんな、部屋の主である俺がいない間に…どう侵入したのだろうか?
「泊めて」
「は?」
「私を、助けてくれるんでしょ?」
「は、はぁ……」
あまりにも泥と埃にまみれている為、その場にいてもらうよりかは、風呂場に案内した。
その隙に、台所で何かそのまま食べられるものはないかを漁る。
菓子パンと麦茶を貰い、部屋に戻った。
幸い今は二人きり。
この後どうするかを一瞬考えた。
「影山くん、着るもの貸して?」
「ぁ、何もないんす、か…………」
何か文句でも言ってやろうと思ったのに、さんのタオルだけの姿を見たら、言葉を飲み込むしかなかった。
相変わらず綺麗なヒトだと、思った。
「ぱん!」
「あ、それ、よかったら…」
そのままの格好でさんはパンにかじりつく。
「人間の食べ物…っ、おいしい……っ!!」
どんな食生活してたらそんな言葉が出てくるんだか…。
さんは泣きながらそれを平らげた。
「服、これ…」
適当に着れそうなシャツと短パンを渡すと、隠す気もなさそうに目の前で着替えられる。
あまりにも色々なことに驚いて、最早片想い相手の生着替えでは動じない。