第17章 常闇の彼方に堕ちていく(黒尾鉄郎)
脚に力が入らなくて、ヒールで歩くのすら覚束ない。
席に案内されて、椅子に座っただけで声が漏れそう。
はーはーと呼吸が荒くなる。
先輩が選んでくれたお店のコース。
せっかく選んでくれたんだから、しっかり味わいたいのに、全く集中できない。
前菜の生ハムのサラダが、最早塩っぽさしか感じない。
「美味いな」
「そ!そうですね!」
涙が出そう。
楽しみにしていたのに。
朝から何も食べていないのに。
それでも、この後があるなら、頑張れる…。
コースが進み、お肉のグリルがテーブルに並ぶ。
華やかな飾りがこれまた可愛い。
「写真、撮ってやるよ」
とテーブルに置いた携帯をこちらに向けてくる。
「え!?」
私、今どんな顔なんだろう?
怖くて見れない…。
「後で送ってやる」
「…ん、ありがと、ございまふ…っ!」
カシャッと電子音が聞こえた。
何回か撮られているうちに、裸で、イきそうな、そんな私を撮られている錯覚に陥る。
「んん、…っ!」
(だめ、我慢出来ない…!)
「せ、せんぱい、おてあらいに……」
ポーチを持って立ち上がる。
それだけで、声が出る。
「ひぁあっ…!」
「いいけど……、イったら、この後はねえよ?」
「んひぃ…っ!い、いじわるぅ……」
くくっと喉で笑われ、私はゆっくりと椅子に戻った。
ナイフを持つ手に力が入らない。
味がわからない。
もう、頭の中は、そっちのことでいっぱいだ。
「は、ぁ…っ」
「声、漏れてるぞ」
目の前のヒトがそう言うだけで、そのヒトのカタチを思い出すだけで、お腹がまたきゅっと反応する。
「はぁ、はっ…う…」
「可愛い」
「あっ。いま、だめぇ、ずるい…っ!」
また笑われ、半べそになりながら、私は最後の一口をなんとか食べ終えた。