第2章 白昼夢幻想曲(烏養繋心)
好きなのは私だけ。
でももう、それでいいの。
もう真っ暗な夜道、ワゴン車の中でいつもの煙草くさい深すぎる口付け。
気持ちいいのも蕩けているのも、私だけ。
それでいい。それでもいい。
「あっいく…っ!!う、んっ…!」
ひきつるようなキツい快楽は、あっという間に私を蝕む。
頭のてっぺんから足の爪先まで、全てを忘れさせてくれるそれが唯一の私の拠り所で、それは好きとは違うって言い聞かせてた。
向こうは私のことなんて微塵も想っていなくて。
それは端々の態度や視線ですぐにわかった。
何もかもが上手くいかなかった。
楽譜を海に捨てた。
家のことも学校のことも、何もかも。
冷たい海に私も膝まで浸かって、もうこのままいなくなってしまおうと、歩を進める。
水が冷たすぎてもう感覚はなかった。
「おい、何やってんだ」
最初に掛けてくれた言葉。
掴まれた腕。
「離して」
「いやだと言ったら」
「離して!叫びますよ!人来て疑われるのはそっちですよ!!」
「このやろ…」
ち、と舌打ちされると、肩に担がれて、あっという間に砂浜まで運ばれた。
「なんなんですか…!」
「たまたま目に入っちまったんだから仕方ねえだろ!
目の前で死なれて、お前が枕元に出て来て迷惑すんのはこっちなんだ!」
着ていたジャージを投げられ、くるんでくる。
「今それしかねえ。臭くても我慢しろ」
温かさを知って、やっと冷えきった全身を思い知る。
寒い。痛い。
「震えてんじゃねえか。
暖房つけてやるから来い」
無理やり乗せられた車は、煙たくて目に染みた。
そのせいではないけれど、涙が止まらなくなって、カタカタと震えてジャージを握りしめた。