第1章 可愛い君へ【太宰治】
んんん…
なんか凄くあったかいな。
そうか、彼に抱きしめられているからか。
などど思い、重い瞼と腰は動かさずに顔だけを彼の胸板に寄せた。
その途端
「あっ、起きたか?ふふっ、おはよ…花奈」
と髪にキスされる。
これ以上の狸寝入りは無理だと悟った私は観念して起きることにした。
顔を離して目を開ければ、甘く、甘く微笑んだ彼がいる。
二人きりの、そして最高に幸せな時にしか見せない恋人の時の顔。
「おはようございます」
「ん」
軽く答えた彼はなぜだかずっと私の頭を撫でている。
撫でている間もずっとあの笑顔で。
そうして気まぐれでマイペースな彼よろしく、唐突に質問を投げかけてくる。
「ね、お前さ、今幸せ?」
「え?」
「俺さ、今すっげー幸せ。ね、花奈。花奈は?」
「私も…幸せですよ?…いつも」
そう返すと彼は少し目を見開いて驚いた顔をして。
今度は私が大好きな、ぎゅっとした笑顔になった。
「良かった!…なんか俺、本当に満ち足りた気がする」
「満ち足りた…?」
「ああ。愛した女に俺といて幸せって思ってもらえて、中也じゃないけれど…欠けたピースが揃った、感じがするんだ」
もう大丈夫だと私は思った。
彼はもう死にたいなんて軽々しく言わない。
彼の心が帰る場所に私がなれたような気がしたのだ。
「それなら良かったです」
私もつられて微笑む。
彼と過ごす時間はこんなにも穏やかで
「…なぁ、お前は俺のことかわいいって言うけど。やっぱりお前の方がかわいいよ?」
「えっ」
不意に投げかけられた言葉に私は固まった。
いきなりすぎて心臓に悪い。
「いや、マジだって。お前の方がかわいい。うん、かわいい」
「そそそんなことないですよ…!」
「なに謙遜してんの?かわいいじゃん。かーわーいーいー」
彼にひたすらかわいいを連呼された上に、ちゅっ、と額にキスされた。
まさかキスされると思ってなかったので、思わずギュッと目を閉じてしまう。
とてつもなく恥ずかしい…。
すると甘いけれど意地悪な笑い声が聞こえてきた。
「なに?ココにして欲しかった?」
とんとん、とくちびるを指で突かれ顔が火照る。
チラッと目を薄めてみれば口角をあげた彼が
「してあげよっか?昨日の夜みたいに」
妖艶に、けれど楽しそうに微笑んだ。
fin