第3章 子供な君へ【坂口安吾】
「隣にいて、一緒に過ごして、こんなに有り難みを感じて幸せな気分になるのは、…後にも先にも、安吾、だけ、だと、思う…絶対」
「お、おう…」
あ、あれ?
なんだか歯切れの悪い返答だと思ったら。
…照れてる…!
彼は手の甲で口を隠していたけれど、うっすら耳や頬が桜色に染まっていた。
どうしよう嬉しい、初めて見た。
そんな気持ちが私の顔に出ていたのだろう。
おうおう笑うんじゃねーよ、と小突かれた。
「だって初めて見たんだもん、安吾が照れてるところ」
「そーかい」
「嬉しい」
「はぁ?」
彼はメガネをクイッと持ち上げて、心底意味がわからない、と言う風に眉を釣り上げてみせた。
そんな似合わない表情に、私はくすくすと笑いながらメガネを元に戻そうと手を伸ばす。
「だって、いつも私の方がその、なんていうかドキドキしてるし」
「振り回してんのはお前なのに勝手にドキドキしてんのかよ」
「わ、悪かったわね!」
「ほらまた眉間にシワを寄せない」
今度は彼に眉間を人差し指でぐいっと押される。
なんというかこの距離感が丁度良い。
「俺だってしてると思うけど」
「どんな時?」
「えっ、マジでそれお前聞く?」
イタズラ半分、本気半分な追求に彼は焦り始める。
目が泳いでる…。
それでもふう、と一息つくと優しい彼は話してくれる。
「まぁなんつーか…仕事一生懸命やる所とか、俺たちにダメなところ見せないように努力してるところとか…好きだけど」
「ドキドキね…俺を見つけた時とかに『あっ、安吾!』ってすっげー嬉しそうにするところとか…あとは普段絶対に泣かないのに、俺の前では超泣くところとか?」
「…それ、ドキドキとはちょっと違うような…」
うん、いや泣くところ見てドキドキはないでしょ。
どちらかって言うと、ゾクゾク?的な…あっ、いやもしかして安吾、相当なヘンタイなじゃ…。
「なに百面相してんだよ」
「な、何でもない」
「…満足したか?」
「……した。…ありがとう」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。
いつもなら髪型が崩れる、と怒るのだけど。
今日はそんなことどうだっていい気分だった。
私も、もっと素直にならなきゃな…。
今日は本当に彼に迷惑をかけた。
「ごめんね、安吾」
「なにが?」
「もっと素直になる…ようにする」
私がぽろりと言葉を零すと、彼は笑って答えた。
