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【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.

第2章 罪と罰の澱の中で


「マスター」
宿舎の廊下を歩いている彼女を呼び止める。
立ち止まり振り向く。
いつも通り、マスターの表情筋は絶賛職場放棄中だ。
古参の何人かを除き結構マスターとは仲良くなったと思うんだけれど相変わらずマスターは毎日無表情だ。
何かに発憤するエカチェリーナを宥めるアレクサンドルに、高笑いするナポレオンにラップが何やらオロオロし、ニコラとノエルがワクワクする。
朝から見ているだけで吐きそうなお祭り騒ぎにも彼女は何ら動じない。
一人で硬いパンをミルクに浸しながら食べていつの間にかいなくなり、気が付けば組手やらに参加している。
女性が出来る事は他にいくらでもあると思うのだが彼女はそういったものは逆に苦手な様だった。
「マスター、又斥候任務に参加したんだって?」
新しい戦地に赴く場合、先行して少数部隊で様子を見に行くが、彼女はそれに必ず参加している。見つかり戦闘になる場合もあるし、ほぼ無いとはいえ、万に一つ現代銃に見つかればただでは済まないだろうに、必ずマスターはそれに随行する。
「私の部下を向かわせる場所を偵察するのは当たり前」
『何かおかしい?』とばかりに見上げてくる深い色の瞳にため息が出る。
「折角綺麗な肌にこんな傷を付けて……」
帰りに敵と交戦になり煙幕弾を使って逃げたそうだが飛び乗った馬が足で跳ねた石が当たったとかで白い目尻が赤く腫れている。
そこを撫でながら言ってもマスターは無表情で見返してくるばかりだ。
痛いとか何かないのだろうか?
取り敢えず自分はそれなりに見た目だって綺麗なはずなのに、は頬を赤らめすらしない。
「お嬢さん(フロイライン)がやる事じゃないんじゃない?」
何気ない一言のつもりだった。
揶揄したつもりではないしむしろ彼女の見た目の可憐さを褒めたつもりだった。
一瞬にしてマスターは真っ赤に頬に血を上らせ俺の手を払う。
「営倉」
――え?
「今すぐ営倉に行きなさい!」
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