【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.
第1章 Bah……
「最近は随分がんばるじゃないか」
ベスくんにギリギリ寝技をかけられながら言われて、ふはっと口を開く。口から息と一緒に水分がだらだら垂れる。
全く優雅じゃない。
「苦しいんだけど」
「苦しくしているからな」
締められると頭が熱くなって水分が外に出る。
つまり額から垂れる汗が鬱陶しい。
何とかベスくんから逃れようともがいてみる。
膝の下に入れられた腕を引っ張り悶える。
痛いだけで抜けない。腕が折れそうだ。
「マスターに負けたくない」
マスターは今日も男に混じって組手をしていた。同じ位の体格の女性はいないから自分より上背のある相手に果敢に組み付いていく。
すげなく投げられるのすら堂に入っている。
「マスターは中々手強いぞ」
俺より力の強いベスくんに言わせてもこうなんだから中々マスターは強いんだろう。
「マスターばかり見ているとこうだ」
ひょい、とベスくんに投げられた俺は床に伸びた。――やっぱり人の体は細くて扱いづらい。
投げ出されてぽきっと折れないだけ良いのかな?
額から滴る汗を手で拭いながら思った。