【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.
第4章 イブの時間
「おやすみなさい、シャルル」
マスターも眠かったのかあふっと欠伸をして俺を抱きしめたまま瞼を閉じる。
「ま、マスター?」
呼んでみたけど、彼女はゆるく頷くだけで目を開かない。
……昔みたいで嬉しいけど、照れるし……、マスターからはお風呂上がりのいい香りがする。
ミルクティーみたいな甘い香り……。
「早く寝なさい」
背中をポンポンされると何だか気持ちが和らぐ。
瞼を閉じる。
マスターは優しく背中をポンポンし続けていた。
「マスター、……、絶対守るよ……君を……」
ポンポンしていた手が止まる。
代わりにぎゅっと服を掴まれた。
「…………絶対に……帰ってきて」
小さな、こんなに近くにいなければ聞こえなかったであろう呟きが耳に届いてしまう。
ぎゅうっと胸に強く掻き抱かれる。
酔いでふにゃふにゃの腕に気合を入れて動かしマスターを抱き返す。
更に強く抱き締められる。
苦しいけど、――多分マスターは今もっと苦しがっている筈だ。
「マスター、ね、いつかちゃんと俺が貴女を守れたら……シャルって呼んでね」
答えはない。
腕がゆるみ、俺は上にあるマスターの顔を見る。
涙をたたえた瞳は閉じられ、今まさに透明な雫が頬を滑り落ちようとしていた。
それを唇で吸い取る。――『しょっぱい』。
胸がもじゃもじゃしてちょっと痛い。
君を泣かせない、強い貴銃士になるよ。
だからその時は――。